王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「あのな、あの男はどう考えてもきみのことを弄ぼうとしてるだろ。そんな男たちのところにわざわざ飛び込んで行く必要はない」
王子はなんだか面白くないようで、鼻の頭にシワを寄せて形のいい唇を尖らせている。
ランバートのことを言っているのだと思うのだが、"そんな男たち"とは誰のことを示しているのだろうか。
エリナは王子に言われているのが、なんとなく今のことだけではないような気がしたが、王子が瑛莉菜の初恋について知っているはずもない。
「ですが王子殿下、殿下だって……」
「俺の名前は、……キット・ガーランドだ。キットでいい」
「……では、キットさま、あの」
「キットだ」
まさか、さっき会ったばかりの王子のことを呼び捨てにしろというのだろうか。
口ごもるエリナだったが、王子はどうやら虫の居所が悪いようで、従わなければ話も進まず腕も離してもらえそうにない。
王子のあまりに魅力的な深い青色の瞳に至近距離で見つめられ、正直、少し心臓に悪いのだった。
(か、顔が近いんだもん……)
王子の命令ならば仕方ないと心の中で言い訳をして、小さく息を吸った。