王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「あの……キットだって、ヴェッカーズ伯爵からラズベリーを譲ってもらわなくては困るでしょう?」
神託の内容によれば、王子は禁断の青い果実を食べなければ死んでしまうのだ。
タイムリミットまではあと5日しかない。
もちろん、禁断の青い果実を手に入れたいのはエリナも同じだが、命がかかっているのはキットのほうだ。
それなのにキットは、そんなことは気にも留めない様子でフンッと鼻先で笑うと、エリナから腕を離して身体を起こした。
「きみを犠牲にして救われる命なんか要らん。別の方法を考える」
「そんなこと言ったって、時間がないですもん」
「だからってわざわざ危険を冒す必要もないだろ」
聞き分けのない子どものようなところは、なんとなく誰かに雰囲気が似ているかもしれない。
まあ、彼がつくった小説のキャラクターならそれも当然かもしれないが。
拗ねたようにそっぽを向くキットの顔を覗き込んで見上げると、不服そうな青い瞳にチラリと自分の姿が映される。
「危険なんかじゃないですよ。私、本当に危なくなったら逃げることくらいできます」