王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
キットはなんとも言えないもどかしさに眉根を寄せてエリナを見下ろした。
長いまつ毛に囲まれた大きな瞳はそれだけで魅力的で、夏の空のような透き通った色は、見る者を捕らえて離さない。
玉のような肌も、淡く色づく頬も、ぷっくりとした誘うような下唇も、実物は想像以上のものだった。
ただ気になるのは、最近の流行りのドレスは胸元が開きすぎている点だ。
無防備にも彼女の肌が晒され、これをランバートや他の男たちがどんな目で見ていたのかと想像すると、今夜の舞踏会は全てなかったことにしたいくらいだ。
それとも、男たちの記憶から彼女の姿を消せば気が済むだろうか。
キットはもやもやと胸に巣食う苛立ちに任せて、片手を彼女のまとめられた黒い髪の間に差し込むと、くしゃりと少しだけ乱してみた。
「なんもわかってねーよ」
「あの……?」
エリナが危ないと感じたときなど、もう手遅れなのだ。
男たちが彼女をどういう目で見ているか。
ランバートが彼女に何をしようとしているか。
そしてそれを実行されてしまったとき、彼女の力だけではとても抵抗なんてできないということを。
そういうことを、エリナは少しもわかっていない。