王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

どんな風に振る舞えばいいのかわからない上に、今は複雑な事情が付いてくる。

ウィルフレッドがはちみつを欲していることを知り、しかし元からそれが目的で近付いたとは知らないウェンディに、どう接したらいいのだろう。


彼女はウィルフレッドとの出会いそのものが意図されたものだったと、勘付いているだろうか。

それとも今はまだ、ウィルフレッドのことを純粋に信頼しているのだろうか。


突然のことに不安がむくむくと膨らんでいくのに、ウィルフレッドの琥珀色に見つめられ、繊細な指で丁寧に手の甲を撫でられると、エリナは自然と頷いてしまっていた。


ウィルフレッドが微笑んで少し身を寄せたので、幼い頃と同じように瞼にキスをされるのだとわかり、大人しく目を閉じた。


「おい」


しかしふたりの間にキットの不機嫌そうな声が割り入ったので、その唇が瞼に押し当てられることはなかった。

パチリと目を開けると、拗ねたように唇を尖らせてウィルフレッドを軽く睨み付けるキットがいた。


「ふつー主が侍女にキスなんかするか」

「エリーは侍女だけどその前に俺の妹だ。それに、キスって言ったって額や瞼や頬だ」


ウィルフレッドはそう言ってみたが、キットの仏頂面は治らず納得していないようだ。

むしろキスするところが瞼だけではないと知って、更に口が曲がっている。
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