王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

あいさつ程度のキスだし、家族ならしてもおかしくないことなのに、この男は妙に硬派なところがあるのだと、ウィルフレッドは思う。

彼は諦めて肩を竦め、包んでいたエリナの両手を解放した。


実を言えば、彼女の手に触れた瞬間からキットが面白くなさそうな顔をしているのには気付いていたが、昨日彼女と会ったばかりの男にエリナに触れることすら制限されるのは少しばかり癪だ。


例え相手が王子でも、遠慮するつもりはない。


「そんなに拗ねるなよ。エリーはまだ俺の庇護下だろ?」

「別に拗ねてねーよ」


キットがエリナを気に入っていることは、なんとなく最初からわかっていた。

そしてエリナがキットに対して、自分に抱くのとは別の種類の信頼と親しみを持っていることも。


ウィルフレッドにとって、よく知るふたりの微妙な気持ちの変化を感じることなど、造作もないことだ。


もちろんキットのことは王子としても男としても信頼してはいるが、可愛がってきたエリナをみすみす渡してやるのはまだまだ早いような気がして、なんとなく頑固な父親のように意地悪をしてしまう。


そんな思いで苦笑するウィルフレッドと、仏頂面でそっぽを向くキットを見て、エリナだけが状況を飲み込めずに首を傾げるのだった。
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