王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
瑛莉菜が入学してからはじめての夏休みが訪れた頃、サークルのメンバーで集まって海でバーベキューをすることになった。
その頃にはもう、先輩が向けてくれる笑顔に胸がきゅんとすることも、それを独り占めにできたらいいのにと思っていることも、ちゃんと自覚するくらいには彼に惹かれていた。
先輩が自分を可愛がってくれることも、たまにドキドキするほど側で話をすることも、好きだから嬉しい。
そしてその日も、日が落ちみんなの盛り上がりも最高潮に達した頃、ふたりでこっそり抜け出して浜辺を歩いた。
先輩は瑛莉菜を引き寄せて、キスをした。
瑛莉菜にとっては、ファースト・キスだった。
先輩からは、きついお酒の匂いがした。
嬉しいはずなのに、"好き"の言葉をくれないことが不安だった。
次の日、瑛莉菜の望む答えをくれることを期待しながら、どんな気持ちで自分にキスをしたのかと、思い切って聞いてみたのだ。
『ごめん、キスもしたことないとは思わなかった。酔ってたんだ。忘れてくれていいから』
それが、彼の答えだった。
本気で好きじゃなくても、キスはできる。
本当の恋をしたときに、本当に好きな相手とするものだと思っていた瑛莉菜のファースト・キスは、呆気なく終わってしまったのだ。
(それなら私は今までずっと、何を探していたの……?)