王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
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しかし、キットにはだいたいのことは検討がついていた。
"真実の愛のキス"を見つけるためには、彼女が本当の恋に目覚めるのが絶対条件ではある。
だが、わざわざランバートの顔を瑛莉菜の初恋の相手と同じにしたのは、エリナを混乱させるためでもなければ、ましてファースト・キスをやり直せということでもない。
ただあれは、弟へのちょっとした意地悪なのだ。
「エリナ」
「……えっ?」
キットがそっと声をかけて思考の波から引っ張り出してやると、空色の瞳が一度大きく瞬いてから、はっきりと自分を映す。
「エリー、大丈夫? なんだか考え込んでたみたいだけど……。もう着いたよ」
別邸の玄関先に止まった馬車から先に降りたウィルフレッドが、心配そうに中を覗き込んでくる。
「あっ、私……」
エリナはあまりに長い間深く考え込んでいたので、馬車が邸に戻って来ていたことにも気付いていなかった。
キットはあたりをキョロキョロと見渡すエリナを残し、ウィルフレッドを押しやって先に馬車を降りた。