降り注ぐのは、君への手紙
大会が終わっても、成美の熱は冷めなかった。
どう言いくるめたのか知らないが、土日に親父に宿題を習いに来るようにもなった。
娘が欲しかったのにと常々愚痴る母親も、素直に好意を示してくる成美のことを可愛がっていた。
まあ、アイツは外見も可愛かったので余計だろう。母親にとっては人形遊びに近いものがあったかもしれない。
親父の方は、おそらく成美に同情していたんだろうと思う。
成美の可愛い顔にたまに傷を見つけたりすると痛ましそうにみて、「お父さんは怖いかい?」なんて聞いたりしていた。
俺は、それをすべて背中で聞いていた。
成美の傷を見てしまうのは、俺には許さていないような気がして。
いつの間にか、まるで彼女のほうがこの家の子供のように思えてきた。
俺が同級生と遊んで家に帰ると、大抵成美が遊びに来ていたからだ。
親を取られたような感覚が嫌だったのか、成美が俺には全く目もくれないことが悔しかったのか、自分でもよく分からなかったが、ある日無性に腹立たしくて、友達との約束も蹴って一緒にいたことがある。
俺のほうが二年も歳上なんだから勉強だって教えてやれるはずだし、親父たちより年が近いんだから楽しい遊びだって教えてやれる。
そう思ったけれど、成績優秀の成美の疑問というのは高度すぎた。
そんなこと習ったかよ、を五回位言った時点で玉砕し、親父にバトンタッチした。
勉強が終わってから、持っているゲームを全て見せたが、成美は全く食いつかず遊びに関しても敗退。
ことごとく失敗に終わり、恥を重ねただけになった俺は、もうそこに混ざるのは辞めた。
やっぱり女なんかと遊べるか。
そう思うことで、何とか自分を保っていた。
成美は親父に勉強を教わるだけじゃなく、母親からお菓子作りなんかも習っていた。
母親は大喜びで、成美が帰った後、俺に女の子の可愛らしさを滔々と語り続ける。
俺と成美はいつまでたっても顔見知りの域を出ないというのに、成美は俺の両親にものすごく溶け込んでいた。