降り注ぐのは、君への手紙


 それから数年が過ぎた。
俺は高一、成美は中ニ。思春期である俺たちは、相変わらず顔を見れば会釈をするくらいの関係のままだった。

それだけでも羨む男は多い。それくらい、その頃の成美はモテていた。

元々きれいな顔立ちをしていた彼女は、年頃になって女らしい膨らみを手に入れたことで、その美しさを磨きをかけていた。

パッチリした二重の瞳は、見つめられている方がたじろぐくらい印象的だったし、長く伸びた黒髪はつい手を伸ばしてしまうほどつややかだった。昭和の女学生を思わせる地味な格好も、彼女の存在感を高潔なものにしていて、さながら手の届かない女優のようだった。


見た目に加えて成績優秀、部活動は文芸部だったが作文コンクールで金賞を貰ったりと壇上で表彰されることも少なくないというスーパーウーマンぶり。

成美に恋心を抱いていた男は少なくなかっただろう。

俺も、部活の後輩に一度相談されたことがある。

「今まで告白したやつの話を聞いても、好きな人がいるの一点張りで」

そいつは、「まさか日向先輩じゃないですよね」といい、探りと牽制を同時にしているらしかった。

しかし、その頃には成美も頻繁には俺の家に来なくなっていたし、来たとしても俺とは話さなかった。
だから、俺は後輩には「役に立てねーよ。悪いな」とだけ告げて追い返した。

胸の奥には、もやもやした感情だけが残る。


俺じゃない。

あいつが好きなのは。

< 11 / 167 >

この作品をシェア

pagetop