降り注ぐのは、君への手紙

「覚えてたの……? 私の事、興味ないんじゃなかったの」

「俺は、妃香里のこといいやつだなって思ってた。無駄に不幸ぶりもしないし、やらなきゃならないことはきちんとして。……どこか逃げてばっかりだった俺には、眩しいくらいだった」

「武俊くん」

「尊敬してた。……でもごめん。恋愛感情は持てなかった」


頭を下げて再びあげた時、妃香里を包んでいた黒い靄は、随分小さくなっていた。


「……チョコレートを」

「え?」

「渡すつもりだったの。死んだ日。やっぱり好きだって。武俊くんが他の子を好きでも私は好きだって」


妃香里の瞳から、涙がこぼれ落ちる。


「だからもう一度付き合ってって」

「……ゴメン」


俺はやっぱり同じ答えを繰り返す。

同情が人を救えるとは思えないから。
親父が、成美を完全に救うことが出来ないように。


「でも、妃香里みたいな奴にそんなに好かれたんなら、俺は前より、自分に自信が持てるよ」

「え?」

「お前に好かれるなら、俺って結構価値あるんじゃんって思えるから」


妃香里は目を見開いて。
そしてようやく穏やかな顔で微笑む。


「……私も、武俊くんを好きになった自分は前の自分より好き」

「ん」

「欲しい物を欲しいって言える自分は好き」

「うん。勇気あるよな」

「……武俊くんは?」

「俺は今まで情けねぇ奴だったから、無かったよ。でも妃香里に負けてらんねぇから、これから頑張る。……頑張りたいんだ」


だから生きたい。
まだ可能性があるなら諦めたくない。

そして今度こそ変な意地を張るのはやめる。
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