降り注ぐのは、君への手紙

やる気だけあっても、運に見放されては終わりらしい。


「あーやべぇ……」


森を抜け、思うがままに歩いた結果、俺は今岸壁の上から身を低くして壮絶なる景色を眺めている。
ゴボゴボという音を発する赤い色の湯と硫黄の香り。徘徊する鬼に、耳をつんざく亡者の悲鳴。

どう考えてもハズレだ。
どうやら地獄に来てしまったらしい。


「どうすっかな、こりゃ」


鬼に見つかったら、閻魔のところにしょっぴいて行かれちまうのかな。
そうしたら現世に戻る可能性ってどうなるんだ?

でも俺はまだ死んでねぇだろ?
三途の川も渡ってねぇのになんで来ちゃったよ地獄。

考えても埒があかない。


「戻るか」


踵を返し、再び森に行こうと歩き出す。

ゴツゴツした岩場は、やがて再び湿り気を帯びた土の地面へと代わり木々が生い茂る森へと入る。
ところがきた道を戻っているはずなのに、一向に出口が見えてこない。


「おっかしいな」


試しに、目についた木に石で印を書き付けて行く。
しかし、しばらく歩くと似た景色が現れ、確認すれば同じ印がある。

ヤバイ。完全に迷ったっぽい。

人の悲鳴とも獣の雄叫びともつかぬ声が時折耳をかすめる。
先は地獄か。
やっぱり地獄にしか行けないのか。

このままだったら俺はどうなるのかな。

いるのかどうか分からないけど、獣に食いちぎられるとか。
もしくはいずれ肉体が滅びるまでさまよい続けるとか?
後は地獄の鬼に捕まるとかもあるかもな……って、どれもダメだろ。

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