降り注ぐのは、君への手紙
ヨミは黒縁メガネを外し、机の上に置いた。
今まで、あまりじっくり顔を見たことは無かったけれど、随分と深く澄んだ瞳をしているんだなと思った。
俺は、コーヒーカップを手にヨミに近づき、近くに置いた。
「それにしちゃ引き合わせるのが遅かったじゃねぇか。俺が来てからもう一ヶ月以上は経つだろう」
「そうですね」
ヨミは鼻をひくつかせて香りを吸い込み、一口喉を潤す。
「……予想以上にタケさんの珈琲が美味しかったのが原因ですかねぇ。これを毎日いただけたらと思ってしまって、彼女を連れてくるのが遅くなってしまいました。タケさんと話しているのも楽しかったですしね。……僕も寂しかったんですかね。それまで気にしたことが無かったんですが。いざタケさんと過ごすようになったら人と話しているのは楽しくて。もう少し、あと少しと思ってしまったんですよ」
かわいこぶるなよ。
ざけんなって。こっちは早く戻りたいって言ってんのによ。
そんなしんみりとした顔をされたら、怒れねぇじゃねぇかよ。
「……まあ、もういいけどよ。で、俺は戻れるのか?」
「しぶとく肉体も生きてらっしゃいますしね。戻れないことは無いですよ。ただね、一つ決まりがあります。ここでの記憶を現世に持っていかれると大騒ぎになってしまいますので」
「え?」
「記憶を消させていただくことになります。それはすなわち、あなたがここに来て最初に感じた彼女への思いも同様に消えることになります」