降り注ぐのは、君への手紙
じゃあ。
ヨミと過ごしたこの日々も、じーさんやばーさん達の話も、妃香里の気持ちも、もう一度成美と向かい合おうとした決意も、俺は皆忘れてしまうのか?
「ヨミのこと、覚えていられないのか?」
呆然と尋ねると、ヨミはくすりと笑う。
「僕のことは一番どうでもいいでしょう」
「よくねぇよ。俺は……」
よくわからないまま、こんな辺鄙なところに来て。
気が狂わずにいられたのは、ヨミが仕事を与えてくれたからだ。
お茶くみと、便箋づくりと。
能なしの仕事だと思っていたけれど、ここにいる期間、俺を救ってくれたのはそうした雑務だった。
ヨミは珈琲を最後まで飲み終えるとにっこりと笑った。
「ああ、美味しかった。タケさんの珈琲は最高でした」
「ヨミ」
「頑張って生きなさい」
ヨミの口が、何か呪文のようなものを唱えた。
と同時に、俺は体の力と意識が抜けていくのがわかった。
「さようなら。いつかまた会う日まで」
闇の中で聞いた言葉は、俺の中にはとどまらず、空に消えていった。