降り注ぐのは、君への手紙

 親父とおふくろが駆け込んできたのは、それから一時間後だった。


「武俊ぃ、良かったぁ」


目の前でおふくろに号泣されるのはあまりいい気分じゃない。
助けを求めて親父に視線を向けると、こっちはこっちで柄にもなく鼻をすすってやがる。
普段、真面目くさった顔してる校長がだぞ?

やめろよ、こっ恥ずかしい。
こんなうだつの上がらねぇドラ息子が死に損なって嬉しいのかよ。


「良かったぁ、良かったぁ」


それでも、何度もその言葉ばかりを繰り返すおふくろに憎まれ口は叩けず、俺は黙って母親の抱擁を受け止めていた。








「まさかうちの高校前で事故るなんてな。驚いたぞ、救急車が来たと思ったら、倒れているのはお前じゃないか。なんでこんなところにいるのかと慌てたもんだ」


おふくろがトイレに行くと席を外したタイミングで、親父が俺に話しかける。
俺はただ黙って唇を噛み締めていた。


「成美ちゃんも心配してたぞ。何度も見舞いにも来てくれたんだ」

「成美が?」


嘘だ。
あいつはずっと俺のことを怖がっているんだから。
心配なんてしてない、いっそほっとしているはずだ。


「お前、ずっと猫を掴んだままだったんだ。トラックに跳ね飛ばされて、倒れて意識も無かったのに、しっかり掴んで離さなかった。猫はさんざん鳴いてて、目撃者もトラックの運転手も途方に暮れてた。救急車に載せられるときに引き剥がしてな、たまたま居合わせた成美ちゃんが、その猫を引き取ってくれたんだ」


あの猫を、成美が?
なんであいつがそんなことをするんだ?


「お前が生き返ったら、きっと猫もお礼をしたいだろうからって。退院したら見に行けるな」

「……そーだね」

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