降り注ぐのは、君への手紙
俺は追いかけたが、自転車の速さに敵うはずもない。
俺と同じくらいの若い男、髪は黒、上半身ががっちりしている。
逃げていく男からとれるだけの情報を読み取り、見失ったところで諦めて戻った。
聞こえてきたのは小さな泣き声だ。
「よしよし、成美ちゃん大丈夫だよ」
なだめるのは親父の声。
隠れるようにしてそっとみると、成美が親父にしがみついて泣いていた。
乱れているのが上半身だけだったから最悪の事態にはなっていないと思う。
それでも、まだ中学二年の彼女が受けた心の傷は大きいだろう。
肩を震わせて、それでも全身を親父に預けている姿を見て、俺は黙って家に戻った。
暴漢と同じ年くらいの俺が傍にいたんじゃ、ただ怖いだけだろうと思ったから。
後から親父に聞いた話では、成美の親父さんがいつものように飲んで暴れて、避難のつもりで外を散歩していたら暴漢に襲われたのだそうだ。
男は成美と同じ中学の男だが、名前までは知らないといった。
すぐに親父がきたから、間違いが起こったわけではなかったのだという。
それでも成美に恐怖心を植え付けるには十分だったろう。
若い男に対し、成美は過剰に怯えるようになってしまった。
「だからお前もしばらくはそっとしておいてやりなさい」と親父に言われて、元々そんなに仲良くねぇよと不貞腐れたように思った。