降り注ぐのは、君への手紙
「美味しかったです。ごちそうさま」
「もう帰るのか?」
「ええ」
会計を済ませて、男が店の戸に手をかける。
息子の友だちのような歳だ。俺の知り合いなわけはない。
と思うのだが、やっぱり何か不思議な感覚がして、俺は男の背中に声をかけた。
「なあ、アンタ名前は? 俺と会ったこと無いかな」
振り向いた男は目を見開いて、「そうですね」と口を緩ませる。
「多分、お会いするのはこれが最後になります。あなたはきっと、未練を残さず生きるから」
「え?」
「さようなら、タケさん」
「おい」
扉の向こうに消えた男を追って、外にでると、もうそこには黒ずくめの男の姿は無かった。
「何なんだ、今の」
空を見上げると、雲の切れ間から光が差し込んでいた。
それきり、その男と会うことはなかった。
【Fin.】