降り注ぐのは、君への手紙
番外編 幸福を願う人

 ヨミさんという人は、不思議な人だ。

本当な地蔵菩薩という偉い(?)人で、六道(そこには現世も地獄も含まれるらしい)で苦しむ人たちの救済をしているらしい。

でも、偉そうな格好はしてなくて、見かけは学生さんみたいに若い。

顔はスッキリと整っているけれど、黒縁のメガネが邪魔であまり良く見えない。
物腰は穏やかで、でも会話は案外マイペース。
雰囲気が柔らかくて、風格はあるのに存在感はない空気みたいな人。 


私も、彼に助けられた一人だ。
お腹に宿ってしまった鬼火を制御出来なくて、ただの怨念になってしまいそうだった時、彼は武俊くんと一緒に私を助けてくれた。


 その後、私はヨミさんの口添えもあって、閻魔様の裁判で天道に行くことになった。

天道というのは、六道の中でも一番平和で楽しい世界なのだけれど、暮らし始めて数日、私は不思議な虚無感を抱えていた。

違和感、なのかも知れない。

楽しいってこんなことだったかなって、思ってしまった。
毎日楽しいってことは、実は楽しくないんだなって。




 そんなある日、ヨミさんが私の前に現れた。


「妃香里さん、助けてください」

「ヨミさん?」


いつも穏やかなヨミさんの必死な表情に胸がざわついて、私は言われるがままヨミさんについてきた。

美しく花咲き乱れる天道を抜けると、ゴツゴツした岩が並ぶ道にでる。
まるで川でも下っているかのように、進めば進むほど岩は石と呼べる大きさになり、ゴツゴツした形も丸みを帯びてくる。

途中で賽の河原を通りぬけると、直に地面は土のものに変わり周りにも木々が茂っている。
やがて見えてくる木造の郵便局。

ここを離れたのはついこの間なのに、私は凄く懐かしくて涙が出そうになった。

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