降り注ぐのは、君への手紙
番外編 幸福を願う人
ヨミさんという人は、不思議な人だ。
本当な地蔵菩薩という偉い(?)人で、六道(そこには現世も地獄も含まれるらしい)で苦しむ人たちの救済をしているらしい。
でも、偉そうな格好はしてなくて、見かけは学生さんみたいに若い。
顔はスッキリと整っているけれど、黒縁のメガネが邪魔であまり良く見えない。
物腰は穏やかで、でも会話は案外マイペース。
雰囲気が柔らかくて、風格はあるのに存在感はない空気みたいな人。
私も、彼に助けられた一人だ。
お腹に宿ってしまった鬼火を制御出来なくて、ただの怨念になってしまいそうだった時、彼は武俊くんと一緒に私を助けてくれた。
その後、私はヨミさんの口添えもあって、閻魔様の裁判で天道に行くことになった。
天道というのは、六道の中でも一番平和で楽しい世界なのだけれど、暮らし始めて数日、私は不思議な虚無感を抱えていた。
違和感、なのかも知れない。
楽しいってこんなことだったかなって、思ってしまった。
毎日楽しいってことは、実は楽しくないんだなって。
*
そんなある日、ヨミさんが私の前に現れた。
「妃香里さん、助けてください」
「ヨミさん?」
いつも穏やかなヨミさんの必死な表情に胸がざわついて、私は言われるがままヨミさんについてきた。
美しく花咲き乱れる天道を抜けると、ゴツゴツした岩が並ぶ道にでる。
まるで川でも下っているかのように、進めば進むほど岩は石と呼べる大きさになり、ゴツゴツした形も丸みを帯びてくる。
途中で賽の河原を通りぬけると、直に地面は土のものに変わり周りにも木々が茂っている。
やがて見えてくる木造の郵便局。
ここを離れたのはついこの間なのに、私は凄く懐かしくて涙が出そうになった。