降り注ぐのは、君への手紙

覗きこんでみると、どうやら写っているのは赤ん坊のようだ。
少し引きの映像になると武俊くんが、ぎこちない手つきで彼女から赤ん坊を受け取っている。

どうやら、武俊くんの子供みたいだ。


「見て下さいよ。タケさんのこの緊張した顔」

「ヨミさん、孫を見るおじいさんのようですよ」


武俊くんを見ているのが嬉しいのか、赤ん坊を見ているのが嬉しいのか。
分からないけど、鏡に向かうヨミさんはあまりに無邪気で嬉しそうで。


……なんかもういいかぁ。

さっきまでの、ヤキモチとか苛立ちが不思議と消えていく。

なんていうか、おじいちゃんがこんなに喜んでるんなら仕方ないかぁって思うときの気持ちと似てる。

無邪気って実は一番強いのかも知れない。


「ヨミさんは凄いですね」

「え? なぜですか?」

「そういうところがです」

「そういうって……?」


訳が分かっていなさそうなヨミさんに、笑顔だけを返した。

私の鬼火も、あなたの傍にいれば大丈夫そうです。





それから後も、ヨミさんは武俊くんのお子さんの成長と彼自身を見守っていく。

猫が死んだときは、一日黙りこくって、次男くんが生まれた時は一日中鏡の前から離れなかった。

ねぇ、武俊くん。
あなたはヨミさんを忘れてしまったけど、ヨミさんはこうしてずっとあなたを見てるよ。


ただただ嬉しそうなその姿を見ていると、これが無償の愛なのかなって思うんだ。

そして私はちょっと悔しくなるよ。
だってこんなに傍にいるのに、彼を喜ばせるのは私じゃないんだもの。



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