降り注ぐのは、君への手紙


 それからまたいくつかの時が経って、私も見知ったお客様がやってきた。


「……え?」

「あ、マスター」

「妃香里……ちゃん?」


すっかり年老いてしまった『珈琲亭』のマスターは、以前とそれほど変わらない私を見て目を丸くし、自問自答するように首を振った。


「いや、そんなに若いわけない」

「そうでもないんですよ。ここは黄泉の国ですから。さあ、こちらにどうぞ」


落ち着いた声をだして、マスターを椅子に招くのはヨミさんだ。


「ここはヨミタケ郵便局です。あなたは現世で何か未練を残したのでは? もしよろしかったらそれをお手紙にしたためてください」

「は、はあ。でも妃香里ちゃんがなんで」


疑問が付きないマスターに、先ず私がここに来ることになった経緯を説明した。


「じゃあ、あの時タケはここにいたのか?」

「そうです。死にかけていた時、彼は生き返るためにここで必死に頑張っていたんです」

「じゃあ」


期待の眼差しをこめてヨミさんを見つめるも、彼は視線を伏せ顔を横に振った。


「あなたはもう無理なんです。体のほうが使い物になりませんから」

「は、……はは。だよな」


マスターは残念そうに笑うと、気持ちを入れ替えたかのように姿勢を正した。


「……アンタが、タケを助けてくれたんだな?」


ヨミさんは答えない。
ただ、じっとマスターを見つめ続けていた。

やがてヨミさんの目に驚きが宿る。マスターがヨミさんの目の前で便箋をくしゃくしゃに丸めたからだ。


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