降り注ぐのは、君への手紙
*
『お会いするのはこれが最後になります』
そう武俊くんに告げて戻ってきたヨミさんは、マスターに何度も頭を下げ、彼を見送った。
マスターは、次はどんな風に生きるんだろう。
人界にもう一度転生するのかな。そうしたら、また武俊くんに会えるのかしら。
でもヨミさんはもう……。
「……もう本当に会えないんでしょうか」
私が呟くと、ヨミさんは笑う。
「会えないほうがいいんですよ。人は未練を残さないほうが幸せです」
そりゃあね。
でも生きてれば少しくらいの未練を残すでしょう?
いっそ残して、ここに会いに来てくれたらいいのに。
ヨミさんだって会いたいくせに。
どうして一言も口に出さないの。
武俊くんの二人のお子さんは独立して、彼の奥さんは無事に定年退職を迎えた。
二人は喧嘩をしながらも【珈琲亭】を続け、彼の体調が思わしくなくなった頃、彼の次男が店舗を改装して譲り受けたいと言い出した。武俊くんは首を横にふる。
「親父の気持ちもわかるけど、店を続けるにはもっと売上を出さなきゃ、生活が立ちゆかなくなる。営業スタイルを変えるのは、結果的にこの店を残すためだ」
「思い出があるんだよ。前のマスターとの」
「だから、結果的に潰れてしまったんじゃ、思い出どころじゃないだろ」
最もなはずのことに、なかなか首を縦に振らない両親を、彼は時間をかけて説得した。
そうこうしている内に、武俊くんは血を吐いて入院することになる。
『お会いするのはこれが最後になります』
そう武俊くんに告げて戻ってきたヨミさんは、マスターに何度も頭を下げ、彼を見送った。
マスターは、次はどんな風に生きるんだろう。
人界にもう一度転生するのかな。そうしたら、また武俊くんに会えるのかしら。
でもヨミさんはもう……。
「……もう本当に会えないんでしょうか」
私が呟くと、ヨミさんは笑う。
「会えないほうがいいんですよ。人は未練を残さないほうが幸せです」
そりゃあね。
でも生きてれば少しくらいの未練を残すでしょう?
いっそ残して、ここに会いに来てくれたらいいのに。
ヨミさんだって会いたいくせに。
どうして一言も口に出さないの。
武俊くんの二人のお子さんは独立して、彼の奥さんは無事に定年退職を迎えた。
二人は喧嘩をしながらも【珈琲亭】を続け、彼の体調が思わしくなくなった頃、彼の次男が店舗を改装して譲り受けたいと言い出した。武俊くんは首を横にふる。
「親父の気持ちもわかるけど、店を続けるにはもっと売上を出さなきゃ、生活が立ちゆかなくなる。営業スタイルを変えるのは、結果的にこの店を残すためだ」
「思い出があるんだよ。前のマスターとの」
「だから、結果的に潰れてしまったんじゃ、思い出どころじゃないだろ」
最もなはずのことに、なかなか首を縦に振らない両親を、彼は時間をかけて説得した。
そうこうしている内に、武俊くんは血を吐いて入院することになる。