降り注ぐのは、君への手紙



『お会いするのはこれが最後になります』


そう武俊くんに告げて戻ってきたヨミさんは、マスターに何度も頭を下げ、彼を見送った。

マスターは、次はどんな風に生きるんだろう。
人界にもう一度転生するのかな。そうしたら、また武俊くんに会えるのかしら。

でもヨミさんはもう……。



「……もう本当に会えないんでしょうか」


私が呟くと、ヨミさんは笑う。


「会えないほうがいいんですよ。人は未練を残さないほうが幸せです」


そりゃあね。
でも生きてれば少しくらいの未練を残すでしょう?
いっそ残して、ここに会いに来てくれたらいいのに。

ヨミさんだって会いたいくせに。
どうして一言も口に出さないの。



 武俊くんの二人のお子さんは独立して、彼の奥さんは無事に定年退職を迎えた。

二人は喧嘩をしながらも【珈琲亭】を続け、彼の体調が思わしくなくなった頃、彼の次男が店舗を改装して譲り受けたいと言い出した。武俊くんは首を横にふる。


「親父の気持ちもわかるけど、店を続けるにはもっと売上を出さなきゃ、生活が立ちゆかなくなる。営業スタイルを変えるのは、結果的にこの店を残すためだ」

「思い出があるんだよ。前のマスターとの」

「だから、結果的に潰れてしまったんじゃ、思い出どころじゃないだろ」


最もなはずのことに、なかなか首を縦に振らない両親を、彼は時間をかけて説得した。
そうこうしている内に、武俊くんは血を吐いて入院することになる。

< 163 / 167 >

この作品をシェア

pagetop