降り注ぐのは、君への手紙

それから暫くしてのことだ。
郵便局の扉が、きしんだ音を立てて開いた。


「いらっしゃいま……」


いつものようにお客様を迎えようとしたヨミさんの声が途切れて、不審に思って私も顔を上げた。
そして、私もまた同じように絶句する。


「よう、久しぶり」


相変わらずの軽口で、だけど以前よりずっとしわくちゃの顔と曲がった体で、そこにいたのは武俊くんだ。


「……どうして」


放心状態で、ヨミさんが声を震わす。
武俊くんは自分からズカズカと入り込んできた。


「どうもこうも。死んだ途端に思い出したんだ。そうしたら未練が生まれた。だからここにこれたんだ」


ヨミさんは表情を決めかねているように硬直していた。
そんな彼の前に、しわがれた手が差し伸べられる。


「“ありがとう”ってヨミに伝えなきゃいけないって」

「タケさん」

「生き返らせてくれて感謝してる。ヨミのお陰で、俺は生き抜けた」

「……何言ってるんですか」


ヨミさんが、泣きそうに顔を歪ませて、彼の手をとった。
武俊くんは、しわくちゃの顔にもっとシワを寄せて笑う。

しっかり繋がれた手を見て、心の底から安堵した。


“あなたは?
あなたは誰かに救われたいと思うときはないの?”


もう随分前に感じた疑問。
答えは今、目の前にある。

きっとヨミさんは、こんな風に誰かに求められたかった。
だって今、心の底から幸せそうに笑っているんだもの。


ヨミさんは幸せを願う人だ。
だから、彼にも幸せになって欲しかった。
そうさせたのが私じゃないのは悔しいけれど、ヨミさんのこんな顔が見れるならそれだけで嬉しい。


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