降り注ぐのは、君への手紙
やがて二人は、カウンターの椅子に座って話始めた。
珈琲を出した私に、「ここで働いてるのか」と武俊くんが笑う。
「いいなぁ。妃香里、若いまんまじゃないか」
「武俊くんはすっかりおじいちゃんだね」
「うん。まあでもこれも悪くないよ」
彼は照れたように笑う。
私の好きだった、自分のありのままを受け入れる彼。
でももう、彼を見ていても胸は痛まない。
私の中の鬼火は、ここにいる限り暴れだすことは無いだろう。
武俊くんは目の端のシワを深めて笑い、ヨミさんを小突いた。
「良かったなぁ。寂しくないな、ヨミ」
「ええ。妃香里さんがいてくれますからね」
「……私ですか? 私、何も出来ないのに」
仕事はちゃんとしてるけど、一応謙遜してそう言うと、ヨミさんが首を振った。
「幸せだと思うときに、共有してくれる誰かが傍にいてくれるのはいいことですね。喜びが膨らむというのはこういうことなのだと知りました」
「だよな」
「妃香里さんがいるから、嬉しさが実感できるんですよ」
それは、私にとってはご褒美のような一言で、それだけで私は幸せだって思ったんだ。
【Fin.】