降り注ぐのは、君への手紙

＊

　それから三年ほどが過ぎた。

成美は宣言通り雪柳高校に入学し、それと同時に家に遊びに来ることはなくなった。
おふくろは寂しそうにしていたけれど、俺は内心鼻で笑っていた。

当然だろ。
あの美少女はアンタの恋敵なんだよ。

いっそ教えてしまえば二人は喧嘩するだろうか、なんて意地悪く考えたこともある。
でも言えなかった。成美の泣き顔がちらついて、いっそ嫌な気分になっただけだ。


　代りと言っては何だが、親父への反発心の方が強まっていた。
将来を考えろと言われるたびに、未来が曇ってますます見えなくなる。低レベルとはいえ進学校だった俺の高校では、いい就職口へのツテがあるわけでもない。とにかく勉強しなきゃいけないことは分かっていたが、集中などできるわけがなかった。

将来の目的があるわけでもない。
ここからどこかに行ける気もしない。

そもそも、俺が世の中に出ることに価値なんてあるんだろうか。

思い悩んでいたころ、卒業した先輩に会った。


「楽しいぜ、大学。彼女もできたしさ。お前、随分疲れてるみたいじゃん。将来なんて考えてるから難しくなるんだよ。まずは遊ぶために入ろうぜ、大学。就職のことはそれから考えりゃいいじゃん。お前んちだったら、金だってだしてくれるじゃん」


親父が教員だったせいか、大学に行くのは当然という空気が家の中にあった。
加えて、先輩の言葉が背中を押した。

こんなどうしようもない物思いを抱えていたところで仕方ない。
成美のことなんて忘れよう。もっと自由に生きるんだ。


高三の春から真面目に勉強し始め、なんとか大学と名のつくところには合格し、俺は高校を卒業した。

彼女もできたが長続きはせず、授業は難しくて試験前にノートを借りまくる始末。
ゼミで教授にコテンパンにしごかれては、居酒屋で絶叫した。

そこそこにヤンチャな大学生活に、親父は眉をひそめていたが、俺は楽しかったし、充実していると思っていた。

あと二年をこんな風に過ごして、そこそこの就職口を見つけられればそれでいい。
今は誰と付き合っても長続きしないけれど、いつか気の合う女の子とも出会えるだろう。

これでいいんだ。
もう成美のことなんて、思い出さなければいい。