降り注ぐのは、君への手紙
木々が多い見晴らしの悪い道をぬける。
見えてきたのは、靄(もや)がかった空気の中、ひっそりと佇む平屋の木造建築。
人工物にお目にかかったのはここに来て何日ぶりだろう。
時間の感覚も曖昧になっていた俺は、さまよいついた先にあった建物に吸い寄せられるように近づいた。
木製の扉は壁から天井まであるんじゃないかと思うほどの大きなもので、厚みもありそうだし、いかにも重そうだった。
息を吸って両手に力を込めて押すと、ギィときしんだ音を立てつつも意外とあっさり開く。
木を削った時に出るようなほのかに香ばしい匂いがどこか懐かしく感じた。
「いらっしゃいませ」
低く、落ち着いた声が俺を迎え入れる。
中は眩しく白んでいて、俺は一瞬目を瞑った。
やがておずおずと目を開いて見ると、そこにいたのは短い黒髪で黒縁眼鏡をかけた実直そうな男だった。
建物の中は六畳程度の狭いスペースを更にカウンターで仕切ってあった。
木製のカウンターの手前には、やはり木で作った四角い椅子が三個置かれている。
カウンターより奥には棚があり、本や書類のようなものがところ狭しと並べられていた。
反対に手前は正面に鏡があるだけで空間としては広くとられている。
一瞬、その空虚さに戸惑ってしまうほどだ。