降り注ぐのは、君への手紙
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大層な歴史のある家では無かったけれど、私が生まれたのはいわゆる地主の家だった。

近隣の民に田畑を貸し、収入の一部を土地代として取り立て、生計を立てる。
小作あっての暮らしだったはずだけれど、村の権力者として父はいつも村人たちを見下していたように思う。

地主の娘とはいえ、三番目ともなると親からの扱いは適当だった。

兄と姉が勉強に作法にと忙しく過ごす中、私は合間に抜けだして遊びに行くことも多かった。

もちろん叱られはしたが、誰もが忙しくいつまでも私にかまっている暇はない。

だから叱られている間だけ殊勝な顔をしていればそれで過ぎていったのだ。

結果、私はおてんばでヤンチャなお嬢さんとして家族にも村の人々にも愛されて育った。


やがて時が過ぎ、私は十四歳になった。

兄は十八歳で跡継ぎとしての勉強のため、毎日父と一緒に歩き回っており、今年女学校を卒業した十六の姉は今は花嫁修業と称して毎日家の手伝いに追われていた。



そんな中、村外れを流れている川に河童が現れたと噂になった。

氾濫の多い川で、申し訳程度の盛り土で堰が作られてからは人の出入りが禁止されていた。
けれど、噂になるということは、そこに立ち入った人間がいるということだ。

私がダメという理由はない、私は人目を盗んでそこに向かった。

十四にしては子どもじみた好奇心で、背丈ほどの草がぼうぼうとしげる中を割って歩く。

視界は悪く、草をかき分けても新たな草が前方を塞ぐ。
けれど、徐々に水の音が大きくなっているのは分かった。
きっと、川は近い。

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