降り注ぐのは、君への手紙
「何してんだ」
前方から声がしたと思ったら、草をかき分けて背の高い男の人が現れた。
「きゃっ」
「おチビさん。危ないだろ、こんなところに」
上半身裸の男の人だ。浅黒く日焼けしていて、腕にも胸にも筋肉がついている。
その体は濡れていて、全体的に艶めいている。
「誰……?」
「なんだ。東阪様のお嬢さんか」
「私を知っているの?」
「この村で東阪様を知らないものはいませんよ。お嬢さん」
男は私を上から見下げた。
私も見ようと思うけれど、眼に入るものが逞しい体だったりするので目のやり場に困る。
美しいとも思える胸板に、顔が勝手に熱くなっていくのを感じた。
「あ、あなたは誰?」
「お嬢さんに名前を教えるほどのものじゃありません」
「……河童さん?」
当時の私はとにかく世間知らずだった。
川の方から現れた濡れた男の人。
これだけで、噂の河童なのかもしれないと疑った。
男は突然笑い出した。
前かがみになりお腹を抱えて。
そうしたら背の高い彼の頭が見えて、そこにお皿がないのが見てとれる。
「お皿がないわ。違うのね。ごめんなさい」
「ってか。お嬢さん、本気で言ってる?」
ヒーヒー笑いながら、彼は笑うのを辞めない。
さすがの私も段々恥ずかしくなってきた。