降り注ぐのは、君への手紙


 家に戻った時、母と兄嫁、そして姉が揃って夕げの支度をしていた。


「どこに行っていたの。幸(こう)も手伝ってちょうだい」

「はい。すみません、お母さん」

「全くこの子は落ち着きが無いわねぇ。凛(りん)と真逆なんだから」


凛とは姉の名だ。無表情なまま私を見て口端をぎこちなく曲げた。


「まあまあ、元気なところが幸ちゃんのいいところですよ」


優しく慰めてくれるのは兄嫁の五月さん。
一番優しいのが他人であるというのはなんだか物悲しい。

私はすぐに両手を洗って、台所に入る。

座敷から一段下がり、土間になっている台所はひどく冷える。
濡れた服のことは言えず、雑巾で水気をとっただけなので、足元の冷えがいつも以上だ。


「ねぇ、そういえば小作の中に……」


聞こうとしてためらわれたのは、姉がカッと目を見開いてこちらを凝視したからだ。


「ね……さま?」

「小作がなんですって?」

「い、いいえ。なんでも」


普段は大人しい姉の鋭い眼光にすくんでしまった私は、それ以上は何も聞けなかった。

母と兄嫁は、そんな私達を気に留めることもなく、早く夕げを出さないと怒り出す父の機嫌ばかりを気にして、手を動かしていた。

私の家は裕福だけど窮屈だ。

私や姉は母に頭が上がらず、その母は父に頭が上がらない。
兄嫁も、迂闊なことは出来ないとばかりに家族が揃うと途端に話さなくなる。

いつだって誰かに押さえつけられているようで、心が時々苦しくなる。


< 47 / 167 >

この作品をシェア

pagetop