降り注ぐのは、君への手紙

結局、板倉という小作のことは誰にも聞けないまま、私は女学校帰りに再び川に向かった。

やっぱり河童を見たい……と言うのは既に言い訳だった。
あそこに行けばまた彼に会えるんじゃないかと、期待していたのだ。


「おーい。いないの、河童」


背丈ほどの草をかき分けて歩く。水音を聞き漏らさないように耳をそばだてて。

人が寄り付かない川べりは温度が一度くらい下がるような気がする。
季節柄、寒いわけではないがなぜだか身じろぎをしてしまう。

場所を移動しながら何度も呼んでも、何も出てこない。
と、足元にぬるりとした感触があった。ぎょっとして下を見るとそこにいたのは大きな緑の物体。


「きゃああ」


蛙だ。
別に苦手なわけじゃないけど、私の足を覆うくらいの大きさのものはさすがに驚く。


「や、離れてよ。やあ」


足を振り回したら、軸足になっていたほうが滑った。

転ぶ、と思った瞬間だ。


「やれやれ、困ったお嬢さんだ」


不意に、後ろからお腹を抑えられた。
筋肉が盛り上がるたくましい腕に引っ張られ、私は体勢を立て直す。
蛙は、ぴょん、と飛びながら何処かへ行ってしまった。


「……昨日の」

「河童なんていないって言っただろ? お嬢さんがこんなトコに来ていいことなんかなんにもねぇぞ」

「でもあなたがいたわ」


口をついて本音が出た。
彼はピタリと動きを止め、私を離す。


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