降り注ぐのは、君への手紙
「……河童はこんな時間には出ねぇよ。夜だ。アンタが抜け出せるんなら見せてやる。でも河童は人を騙す怪物だぞ? 魅せられる覚悟が無いやつは来ない方がいい」
「怖くなどありません」
「お嬢さんは意地っ張りだな」
頬に、彼の手が触れた。
心臓がどきりと弾んで、生唾が湧き上がる。
彼は目を細めて、どこか遠くを見るような眼差しで私を見つめた。
見つめられているはずなのに、目が合わないような感覚がとても不思議に感じる。
「……もう、お帰り」
「あなたも、来てくれるのですよね。夜」
「そうだな。月が真上に昇る頃だ」
彼の手が私の背中を押す。
それに一歩を押し出されて、そのまま二歩三歩と歩き出す。
既に心臓は全力疾走した時のように激しくなっていた。
今夜。
抜けだして、河童を見る。
いや、私は河童を見たいわけじゃない。
彼に会いたいのだ。
艶めいたあの男ともっと会って話がしたいのだ。