降り注ぐのは、君への手紙
「逃げるな」
彼の声が、私の動きを止める。
手が重ねられて、その分腕の力は緩んだので逃げられないこともない。
だけど。
……私は逃げなかった。
近づいてくる彼の唇を、そのまま受け止めた。
初めてだ。
男の人に抱きしめられるのも、接吻されるのも。
こんなこと、結婚する人とするのだと思っていた。
「……どうして逃げない」
呼吸が苦しくなるほどの接吻を交わした彼は、熱を持った息を吐き出しながら問いかける。
「逃げるなって言ったのはあなたじゃないですか」
私はくすりと笑い、そして彼のがっしりした腕を掴む。
「私はあなたに会いに来たからです。……あなたが私の探し続けた河童だからです」
私を閉じ込めたその瞳は、どこか潤んでいるようだった。
彼の肌も、湿り気があり本当に河童のようだと思う。
彼は悲しそうに顔を歪め、「……馬鹿か?」と小さくつぶやいて、もう一度私の口を塞いだ。
口づけが、こんなに甘いものだとは知らなかった。
触れている部分だけじゃなく、頭の先から足の先まで、蕩けそうになるものだったのだとは。