降り注ぐのは、君への手紙
それから、私と彼の逢瀬は続いた。
女学校の帰りに会う日もあれば、夜半抜け出すことも度々あった。
闇は色々なものを飲み込んでしまう。
すっかり彼に魅入られてしまった私には、善悪などどうでもよかった。
ただ彼に会いたい。彼の腕の中で、家族への不満、息苦しさを吐き出した。彼はいつも優しく私の髪を撫でながら、潤む私の瞳に、まぶたに口づけを落とす。それだけで幸せで、まるで夢の中にいるようだった。
やがて、姉の祝言の日が近づく。
両親も村全体もひどく落ち着きがなく慌ただしい。
「少しは手伝ってちょうだい」
不満に息を荒くする母の声も、どこか冷たい姉からのまなざしも、心配そうに問いかける兄嫁の言葉にも私は頓着しなかった。
彼に会いたい。
それだけが当時の私を動かしていた。
「姉が、祝言をあげるの」
「ああ、知ってる」
彼は水音に耳を傾けながら、逞しく浅黒い腕を地面へとついた。
「……私達に、そんな未来はあるかしら」
この頃になって、ようやく私は現実と夢想の差異に気付き始めた。
恋は甘いだけのものではない。
小作の息子との恋愛は、果たして私の親には認められるものなのだろうか。
そもそも彼にはその気があるのだろうか。
私の親に頭を下げるだけの覚悟が。