降り注ぐのは、君への手紙
「どうかな。無理かもしれない」
「そんな、ね、一度だけでも話をしに来てくれない?」
「そんなことをしたら、もう二度と会わせては貰えないだろうよ」
手が伸び、髪を掬う。
黒髪が流れ落ちるさらさらという音が草の囁きに交じって同化する。
暗闇に雲間から現れた月光が差した。
淡い光に照らされた彼の太い首にはスジが浮かび上がり、隆々とした筋肉が濡れたような陰影を作る。
「……一緒に死のうか」
「え?」
「この世で叶わぬ恋なら、あの世で果たせばいい」
何を言っているのか、分からなかった。
彼の真っ黒の瞳が私を見つめる。
深みのある黒に吸い込まれてしまいそうだった。
「……そう、ね」
夢現の中にいたように、私は深く考えること無く彼の言葉に同意した。
あの世で結ばれるという言葉はひどく倒錯的で美しく、自分が悲劇の登場人物にでもなったような気がした。
愛する人と手に手をとって、死という新しい世界へ旅立つだけなのだ。
それは言い換えれば、しがらみの多い現世からの脱出でもある。
何のしがらみもない世界に一人ではなく二人でいけるなら幸福なのではないだろうか。
「怖くない?」
「いいえ」
頬を撫でる彼の手を、自分の手で包み込み、彼の吐息を感じながら決意を固める。
――私は運命の恋とともに死ぬのだ。