降り注ぐのは、君への手紙


決行は姉の祝言の日にした。

誰もが祝いに浮かれ、遅くまで飲み明かす。お先に寝ますと言って寝床に戻れば、その後こっそり抜けだしても誰も不在には気づかないだろう。

不思議と現実感は無かった。
翌日女学校で使う教科書を文机に準備してから、もういらないのにと気づいて苦笑する。

いつも一緒の部屋で寝ていた姉ももういない。
夫となった家柄ばかりが立派な凡庸とした男と、今夜初夜を迎えるのだろう。

佐助への我を忘れるような恋情を知った自分に、同じことが出来るとは思えなかった。

だから彼と行くのだ。
来世で再びまみえるために。


月が真上に昇る頃、私はそっと家を抜けだした。

人が起きている気配はそこここからしたけれど、誰も私には気づかない。
明かりのついた母屋は宵はこれからだと言わんばかりに男たちの笑い声でにぎわっていた。

私は堰を越え、草をかき分け彼の元へと向かった。


「佐助」

「……本当に来るとは思わなかった」


佐助は自嘲気味に笑った。

彼の目を瞠るような白装束を見て、なるほど死にいくには格好の服装だと思う。
私は、自分が寝巻きの浴衣であることが恥ずかしくなった。

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