降り注ぐのは、君への手紙
私は口に入っていた最後の空気を吐き出した。
鮮明に見えた白い泡。
遠ざかっていくのと同時に、自らも意識を失うはずだった。
なのに、苦しさは私を放っておいてくれなかった。
口に入り込んでくる川水が気持ち悪い。
さっきまで力を無くしていた体がこわばり、無意識に彼の手から逃れようともがいた。
――やっぱり死にたくない!
突然現実に戻ったようにそう思った。
空気が欲しい。
呼吸がしたい。
この手を離して!
もがいた私の手は、彼の頬を引っ掻いた。
水の中で、それは別に痛くはなかっただろうけれど、その時しっかりと私を抱きしめていた手が不意に緩んだ。
途端に私の体がぐいと上に浮く。
「幸」
水の中で音が聞こえるはずはない。
けれどこの時、私は彼の声を聞いた。
そして、もしかしたら名前をちゃんと呼ばれたのは初めてだったかもしれないと不意に思う。
私は彼を見つめた。
水の中でもがき苦しむこともなく、ただ寂しそうに微笑み、口を開く彼を。
「……生きろ」
どこから湧き上がったのか分からない渦がやがて佐助を見えなくさせた。
私はその渦に巻き込まれ、そのまま意識を失った。