降り注ぐのは、君への手紙


季節が変わり、戦争が終わる。
この戦争で僕ら家族は父を失った。

疎開先から帰ってきた僕が見たものは、焼け野原になった街だった。

復興に誰もが必死だった。

子供とはいえ例外ではない。
つましい暮らしの中、僕たちは朝から働き、いける時だけ学校に行き、帰ってからもまた家の手伝いに勤しんだ。

気がつけば、年は十五を超えていた。
戦争で遅れた学校をようやく終えた僕は、とにかく弟妹を養うために働いた。

幸い、復興に向けて建設業は人手不足だった。
たいした学のない僕でも仕事は山ほどあった。

そうして仕事を続けること数年、再び彼女と出会ったのだ。


「ここにひまわりを植えたら綺麗だと思わないか?」


小学校の校舎増築の仕事をしていた時だ。

時折、休憩の時に学校の先生や事務の人が気を使って冷たいお茶を持ってきてくれる。
いつもの事務員さんと違う人だ、とその人の顔を見た時、僕は息が止まるかと思った。

彼女は僕には気づいていなかっただろう。けれど僕には直ぐに分かった。

二十代半ばの彼女は、あの日と変わらぬ意志の強そうな瞳を輝かせて、なんという名前か分からない緑の低木が植わっている花壇を指さした。


「やはり花がないと花壇は映えない。子供に見せるなら元気の出る黄色がいい。すくすく伸び、迷いなく太陽を見つめるひまわりがいいと思うんだ。これからを担う子どもたちに必要なのは希望だ」

「はは、先生は難しいこと考えるねぇ」


他の作業員は笑うだけだった。
僕だけが、胸が震えるような感動を抑えきれずに彼女の手をにぎる。

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