降り注ぐのは、君への手紙

学校について、僕はすべての物思いが杞憂に終わったことを知った。

彼女は本を片手に花壇の端に座っていた。近づく僕に気づくと顔を上げフッと微笑む。


「遅かったじゃないか。時間を決めてなかったから朝一で来たんだぞ」

「す、すいません」


気を抜いたら安堵で泣いてしまいそうだった。
汗を拭くふりをして、熱くなる顔を腕で何度もこする。


「自己紹介がまだだったな。私は池端宮子(いけはた みやこ)という。今は三年生の担任をしている」

「僕は、谷内惣一郎(たにうち そういちろう)といいます」


宮子の家は、船舶による運送業でそれなりの益を持つ家庭だったそうだ。
しかし、父の死後その業務一般は叔父の手に渡り、現在宮子は残された母と二人で暮らしているらしい。


「男の兄弟はおらず、当時は私もまだ学生だった。母が仕事を受け継げればよかったのだがな。家のことしか出来ない人だったし。
遺産は私や妹の学費と姉の嫁入り支度で消えた。でもまあ、なんとか姉や妹も嫁に行ったし、私と母が食う分くらいは私が稼げる。困ることは何もない」


だから、その年で独身なのかと納得した。

確かに口調も性格も男らしいが、宮子は決して容姿は悪くない。嫁の貰い手がいないとは思えなかった。
ただ、母親ごと引き受ける男はなかなかいないし、縁談を世話をしてくれるような親類もいないのだろう。
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