降り注ぐのは、君への手紙
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俺と成美は、一般的に言えば幼なじみというやつなのだろう。家は向かいで、赤ん坊のころから顔見知り。
だれど、二つの歳の差は俺たちをそれほど親密にはしなかった。

成美の親は共働きで、彼女は小さな時から保育園に預けられていたからそれほど接点もなく、小学生になってからは女となんか遊べるかという変な差別意識が俺の中にはびこっていた。

小学校の集団登校の時は一緒に登校もしたけれど、俺はいつも同級生の友達とばかり話していたし、それは成美も同様だった。


 成美の家はそこそこの中流家庭という感じだったが、父親が酒飲みで酔うと大声で騒ぐことで有名だった。あまり公にはされていなかったが、成美は時に暴力を振るわれることもあったようだ。

大人しそうな母親と泣きじゃくる成美が、夜に家から出てきてしばらく町内を散歩してからそっと戻っていくのを、俺は二階の自室から見かけたことがある。


 しかし酔っ払った時以外の成美の父親は、至って普通の大人という印象だった。

集団登校で小学生が集まっている時にちょうど通勤していくのだが、すました顔で俺達に「おはよう」と声をかけ、颯爽と歩いていく。

見た目の良さから、「成美ちゃんのお父さん格好良いね」なんて彼女の友達は言っていたが、その時の成美は必ず俯いて口を真一文字にしていた。


俺は漠然と、成美は親父さんが嫌いなんだなと思っていた。

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