降り注ぐのは、君への手紙
俺が小学校五年で成美が三年の時だったか、町内対抗のドッジボール大会が開かれることになった。
発案者はお遊び感覚だったのだろうが、当時の俺達は真剣だった。
必ず優勝するぞと意気込んでいたから、特訓もしたし、無い知恵をしぼって作戦も考えた。
そのうちの一つが、教師だった自分の父親にコーチを頼むことだった。
俺の親父・日向俊勝(ひゅうが としかつ)は歴史を専門とする社会科の教師で、バスケ部の顧問をしていた。
そのときはあまり部活動の盛んでない高校にいたからか、割合家にいた時期だった気がする。
俺の提案に、元来子供好きである親父は、土日ならいくらでもと心良く引き受けてくれた。
“向かいの家のおじさん”が教師であると、成美が知ったのはその時だったらしい。
「たけとしくんのお父さんって先生なの?」
普段は女子の中で大人しくしている成美が、頬を染めながらもおずおずと言った。
それは挨拶や事務的なやりとり以外で、初めて彼女から俺に話しかけてきた瞬間だったかもしれない。
「そーだよ」
「そうなんだ。かっこいいね」
ポツリと言った成美の視線は、ずっと親父に注がれていた。
もしかしたら、自分の親父と比べての憧れだったのかも知れない。
その時から、成美は驚くほど親父によく懐いた。
どちらかと言えば鈍臭い方だと思っていたのに、メキメキとドッチボールの腕も上げた。
いや、ドッチボールの腕と言うよりは逃げ足が速くなったというべきかな。
その年、俺達が大会で優勝したのは、成美が最後までぶつけられずに逃げ切ったからだ。