神様修行はじめます! 其の四

はぁ・・・忘れてたわ。権田原一族の図太さを。


どん底に追い詰められた時こそ、彼らの本領発揮なんだった。


呆れたような、でもちょっと安心したような気持ちで、あたしはお岩さんの体をグイグイ揺すった。


「ちょっとお岩さんてば起きてよ」


「・・・ハッ?」


お岩さんはバッと頭を持ち上げた。


土で汚れた顔で驚いたようにキョロキョロする。


・・・驚いてるのはこっちだってば。



「い、いけない。ついウトウトと・・・」


「ウトウトっつーよりも熟睡してたよね? 寝息聞こえてたけど」


「ショックのあまり、無意識に現実逃避してしまったようですわ。我ながら醜態ですわ」


「いや、醜態ってよりむしろ、称賛」



お岩さんは立ち上がり、ドレスについた土埃をパンパン払い落とす。


手の平でゴシゴシと顔の泥もこすり落とした。


そして、腕の擦り傷を見ながら顔をしかめる。



「なんだか体のアチコチが痛みますわねぇ。あら血が出てますわ」


「ほんとだ。痛そうだね。大丈夫?」


「この程度の痛みなんて、権田原の民なら子どもの頃から慣れっこですわよ。大丈夫」



そう言って微笑むお岩さんの顔は・・・案の定、泣き腫らしている。


そんな顔して『こんな痛み、大丈夫』なんて笑って言われて、逆にこっちの胸が痛んでしまった。


彼女は強い。確かに強い。


そのポテンシャルたるや、未知数で驚異的だ。


でもどんなに強くて図太くても、痛みを感じないわけじゃないだろうに。


それでも彼女は、泣いた後の赤いまぶたと鼻の頭で、人に笑顔を見せるんだ。


『こんなの全然、平気だよ』って胸を張って。

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