神様修行はじめます! 其の四
天内の血
あたしの目だけじゃなく、口まで大きくパッカリ開いた。
滅火の一族の、まつえい・・・?
あたしの、結婚相手・・・?
なに言ってんの、このババ。
突飛すぎて、とても日本語を話しているとは思えない。
「信子よ、冗談も休み休み言うがよいわ」
言葉の出ないあたしに変わって、絹糸が不機嫌そうに言った。
「天内の血は、絶えた。この小娘が最後の生き残りじゃ」
「絶えてはおらぬ。もうひとり、生き残っていたのだ」
「ほぉぉう? どこにいると言うのじゃ?」
「ここだ」
ハッキリとした声が、広間の端の方から聞こえた。
門川君とは違った声質の、良く通る力強い声。
その声と共に、ひとりの男がこちらに向かって颯爽と歩いて来る。
見開かれたあたしの目に、その人の羽織の臙脂(えんじ)色が飛び込んできた。
赤よりも深く、茶よりも鮮やか。
茜よりも力強く、まるで、燃える血の意思のような紅花染め。
これぞ臙脂色。 としか言い表せない、そんな見事な色だった。
「あれは天内の正式な血筋を表す、色印・・・!」
絹糸の、息を飲む音が聞こえた。
その臙脂の羽織を着た人物が、大股でズカズカと近寄ってくる。
そして、あたしの目の前でピタリと立ち止まった。
あたしはその人の顔を、ポカンとして見上げるしかない。
呆けている耳にババの声が聞こえて来た。
「その男が、天内 浄火(じょうか)だ」