神様修行はじめます! 其の四

母の目の前で、娘の体は変貌した。


顔も、首も、手も足も、見える部分の全てが硬いウロコに覆われる。


白目を剥く目はますます尖り、降る雨のように涙を流す。


泡を吹く口からは、人とは違う細い舌が異様に伸び。


絶え間ない絶叫が、死よりも激しい苦痛を訴え、言葉にならない救いを母に求める。


信子は半狂乱になり、奇声を発して波打ち際へ駆け寄った。


我を忘れて海へ飛び込もうとする。


『そこから動くな、信子。まだお前に死なれては困る』


男の声に、信子は涙に濡れた悲壮な顔を上げる。


そして一心不乱に哀願した。


『どうか、どうか御慈悲を! 子独楽を助けてください!』


『助けるとも。お前が言うべき事を言いさえすればのぉ』


言えば・・・


言えばどれほどの犠牲が生まれるか分からない。


その罪は全て、自分はもとより娘の肩にまで重く圧し掛かる。


滝のような涙を流し、逡巡する信子の目の前で、男がまたツボを子独楽の口元に当てた。


『・・・しゃべらぬか。では、ふた口め』


悲鳴を上げ続ける口の中に、見せしめのようにドボリと水が流し込まれた。


信子がひぃぃと、か細い声をあげる。


叫び続けていた子独楽の悲鳴が、嘘のようにピタリと止まった。


一瞬のおぞましい静寂が、闇と全てを包み込み・・・・・・


―― ビクーーン!


エビぞりに仰け反った幼い体の腰から下が、ヘビの尾へと変貌した。

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