神様修行はじめます! 其の四
信子の叫びが、ピタリと止んだ。
ネジの切れた人形のように、パカリと口を開いたまま、ぴくりとも動かない。
地に伏して動かぬ頭の上に、淡々とした声が降りそそぐ。
力のないお前たちは、なんの役にもたたぬ。
なのに食い、生きている。
・・・だれが、その食物を用意する?
だれが、命を張ってお前たちを異形から守る?
それは我らだ。
我らが能力を行使し、命を犠牲にして、お前たちを生き長らえさせている。
だがお前たちは、その我らに対して何ひとつ、何の利益も返さない。
それだけの能力を持たぬ存在だから。
なのに、お前たちは声高に叫ぶのだ。
自分たちにも生きる権利があると、当然のように。
神の一族たちと同じ権利を、自分たちにも寄こせと言う。
何もできないくせに。
何もできず、我らから搾取するばかりのくせに。
『何の役にも立たぬゴミが、産まれただけでも迷惑なものを』
『・・・・・・・・・・・・』
『ゴミの分際で、まともに生きようなどと片腹痛いわ。笑わせるでない』
父親は、瀕死の娘の前髪をつかんだ。
そのまま持ち上げ、意識の失せた顔に向かって言い含める。
『哀れなものよのぅ。一度母に捨てられ、再び見殺しにされるか』
『・・・・・・・・・・・・』
『よく聞け。これは全て、お前の母親のせいじゃ』
水を飲ませたのも、母のせい。
お前をわしの元へ寄こしたのも、母のせい。
そもそも・・・・・・
『お前を産んだのも、あの女のせいじゃ』
『お゛・・・・・・』
もはや人のものではない唇が、ようよう音を出す。
身じろぎもしなかった信子が、弾かれたように顔を上げて娘を見た。
『お゛ が あ゛ ざ ・・・・・・』
子独楽のウロコだらけの頬を、透明な涙がひと雫、伝って落ちた。
どおぉっと、信子の両目から涙がほとばしる。