神様修行はじめます! 其の四
「里緒」
ポンと肩を、大きな手で抱かれた。
「この後、ふたりでゆっくり話そうぜ。天内の話を色々と聞きたいんだ」
あたしは顔を真っ直ぐ前へ向けたまま、浄火の方を見なかった。
あたしの目は、心は、ふすまの向こうへ向けられていたから。
その先の、あたしの好きな人へと。
「浄火よ、それは後回しだ。お前をこれから各一族の当主たちと目通りさせねばならん」
ババがそう言って近づいて来る。
その気配を感じて、あたしは息を止めた。
この女の吐く息を吸い込むことが、とてもじゃないけど耐えられなかった。
「信子ババ、オレは里緒と一緒にいたいんだ」
「ふふ。あせらずともこの先一生、お前たちは一緒だろう?」
「いやあ! 改めてそう言われると照れるなあ!」
浄火が豪快に笑って頭を掻く。
そしてあたしの肩をバンバン叩いて、ひょいと顔を覗き込んだ。
「じゃあ、後でな。オレの嫁!」
底抜けに邪気のない顔で、そう言って離れていく。
浄火も、ババも、当主たちも、みんな次々と大広間から退室していった。