神様修行はじめます! 其の四
「戌亥! みんな! 頼むからやめてくれ!」
「浄火、お前はおれの目の前で、本当になんでも手に入れてきた」
声を枯らして叫ぶ浄火に、戌亥は訥々と語りかける。
「お前はな、最後におれの一番大事なものを奪ったんだよ」
「戌亥! もうやめるんだ! こんなことして何になる!」
「一番・・・大事なものなんだよ」
手も足も出ず、攻められ続けるばかりの浄火を、戌亥は食い入るように見つめていた。
浄火の声はまるで耳に入らないように、自分の言いたい事を話し続けている。
ふたりの間には、もはや会話は成立していなかった。
「それはな、もうこの世で、たったひとり残ったおれの肉親だよ」
世界中の誰が敵になっても・・・
この人だけは、おれの味方でいてくれる。
世界中の誰ひとり、おれを愛してくれなくても・・・
この人だけは、誰より愛してくれる。
たったひとりの、最後の砦。
おれがこの世界に生まれ落ちた時から、ずっと最高の理解者だった人。
父よりも、母よりも、無条件でおれという存在を喜び、慈しんでくれた。
おれの・・・・・・
大好きな、おばあ様・・・・・・。
「お前は・・・おれの一番大切で大好きなものを、おれから奪い去ったんだ!!」
浄火も、あたしも、仲間達も、村人達も。
この場の全員が、カッと目を見開いて叫ぶ戌亥を唖然と見つめていた。
戌亥の、大きく開いた口元を。
・・・戌亥の言葉に、驚いたわけじゃ無い。
あたし達全員の目は、その口からダラダラと流れ落ちる・・・
真っ赤な血を見つめていた。
―― ドサリ・・・
人形のように、戌亥の体がうつ伏せに崩れ落ちる。
その背中には、深々とナイフが突き刺さっていた。
そして、その背後に・・・・・・
「・・・お、ば、あ・・・さま・・・?」
倒れた戌亥の、放心した声。
その視線の先に、両手を実の孫の血に濡らした長さんが立っていた。