神様修行はじめます! 其の四

戌亥を見下ろす長さんに、表情は無かった。


紙のように白く血の気が失せた顔で、じっと戌亥を見ている。


戌亥の背中からは、ドクドクと音が聞こえんばかりに流血していた。


よほどの力を込めてナイフを突き刺したんだろう。


「お、ば、あ・・・さま・・・?」


ポカンと開かれた戌亥の口は、そればかりを繰り返した。


『信じられない』


大きく見開かれた彼の両目がそう語っていた。


この世で最後の砦。


この人だけは、何があってもどうなっても。


きっと最後の最後には、自分の味方でいてくれる。


信じていたその人が・・・。


周囲は、今までの喧騒が嘘のようにシンと静まり返っていた。


何をどう反応すれば良いのか分からず、凍ったように全員がその場に立ち尽くしている。


静けさの中、スッと長さんが身を屈め、戌亥の背に刺さるナイフの柄に手をかけた。


抜くのだと、誰もが思った。


―― グッ・・・!


力を込めて、長さんは更に深く背に突き刺す。


戌亥の上半身が軽く反り返り、両目が限界まで見開かれる。


「お・・・ば・・・あ・・・」


吐息なのか、声なのか、聞き取れないほどの音をノドから出して。


最後の力を振り絞り、戌亥は首を起こして祖母の貌を見た。


そしてやっぱり、同じ言葉を繰り返す。


「おばあ・・・ちゃ、ん・・・・・・」


ボタボタと、声と一緒に口から血があふれ出た。


焦点のぼやけた彼の両目に涙がどぉっと盛り上がる。


ボロリ、ボロリと、ふた筋の涙が頬と鼻筋を伝って落ちて・・・


トンッと力が抜けたように、あっけなく頭が地に伏せた。


戌亥は、祖母に背中を刺されて、絶命した。

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