神様修行はじめます! 其の四
戌亥の体から流れる真っ赤な血の中に、白い液体が混じっている。
あたし達の目の前で、それはウニウニと蠢きながら集合し、ひと塊になった。
意思を持つようにスルスルと滑らかな動きで、土の上を移動していく。
そして岩場の陰に隠れて、見えなくなってしまった。
それを合図のように戌亥が召喚した古代のヘビは、影も形も無く消失してしまった。
まるで、夢が醒めるかのように。
・・・あたし達はただ息を詰め、長さんと戌亥の姿を見つめている。
音という存在が喪失してしまったように、どこまでも静寂で。
異様なほど空気は張りつめていた。
長さんの血濡れた手が、戌亥の髪の毛に伸びる。
シワだらけの指が、そっと愛しげに黒髪を梳く。
何度も何度も。
そして・・・・・・
戌亥の体に突っ伏して、老いた身を震わせ・・・
細く、弱々しく、振り絞るように嗚咽した。
「な・・・・・・」
長さんの泣き声で、静寂が破られて。
停止していた空間がようやくソロソロと動き出す。
誰しも身動きできない中で、一番最初に反応したのは浄火だった。
「何やってんだよ!? 長あぁぁ!?」
その悲鳴で、スイッチが入ったように一気に状況は慌ただしくなった。
あたしも頭の霧が晴れたように、やっとの事で目の前の状況を認識し始める。
お・・・長さんが戌亥を、こ、殺してしまった!
たったひとりの自分の孫を、その手で刺し殺した!
確かに追い詰められた状況だったけど、でも、でもまさか!