神様修行はじめます! 其の四
折り重なるように倒れ、命尽きたふたり。
そのふたりを前にして、主さんは血に濡れた首をダラリと下げ、うな垂れていた。
ルビーのような美しい瞳が、やるせない憂いを湛えている。
こんなこと、見たくはなかったんだ。
だから主さんは、いつも沼の底で人と関わらずに過ごしてきたのに。
「白妙・・・」
絹糸が、慰めるように声をかけた。
「白妙」
「その名で呼ぶのは、やめとくれ」
主さんは、うな垂れたままポツリと答える。
死んでいった者たちの姿から目を逸らさずに。
「その名は、勝のやつがあたしに勝手に押し付けやがった名なのさ」
「・・・そうか」
名付けは絆。セバスチャンさんからそう聞いた。
主さんは、人から名前を呼ばれるのをあんなに嫌がるけど。
それは支配されるのを拒否してるからだけじゃなかった。
本当に避けたかったことは、そんな事じゃないんだ。
「あたしゃね、認めちゃいないんだよ。ああ、一度だって認めたこたぁ無いのさ」
白妙さんは小刻みに首を横に振った。
人を遠ざけ続けてきた、心優しい異形。
恐れていた最悪の事態を目の前にして、何を思うのだろう。
『もっと早くに、あなたと出会いたかった』
そんな言葉を最後に遺し、微笑みながら逝かれてしまって。
どんな気持ちで・・・いるのだろうか。
「孫をその手で殺めた時に、もはやこの者の命運は決まっていたのじゃ」
「・・・・・・・・・・・・」
「救えなかったことを絶望するでない。それは、詮無いことじゃ」
これまで数えきれない命を見送ってきた絹糸が、そう言った。