神様修行はじめます! 其の四
「う・・・ぐ・・・」
子猫のように細く弱々しい、呻き声が聞こえた。
砕かれた木片の山の中で、ゴソゴソと何かが動いている。
肩から下が完全にガレキに埋まった、子作りマシーンだった。
頭から真っ赤な血がダラダラと流れている。
どうやら相当深い傷を負ったらしい。
胸が圧迫されて苦しいのか、ゲホゲホと激しく咳き込んでいた。
「子・・・を・・・」
ヒクヒクと首を動かし、何かを探し求めるような動作。
ゆらゆら移ろう、ぼやけた視線。
きっとお岩さんの姿を探しているんだ。
「子・・・わしの・・・子を・・・産・・・」
体は衰弱して、ほとんど意識なんて保てていないんだろう。
朦朧とした頭の中は、自分の子を望む意思のみが支配している。
そのすさまじいほどの執念・・・ううん。
それもまた、衝動なんだろう。
蛟一族は多産と生命の象徴。
その長ともなれば、より多く子を成す事こそが権威の証。
優秀な遺伝子を持つ子孫を、ひとりでも増やす事が絶対の使命。
醜く、浅ましいとまで思える蛟の衝動に、この人は逆らえなかった。
逆らうどころか、脇目も振らずに突き進んだ。
だってそれは蛟一族の長にとっては、ごく当然の『普通』なのだから。
だけど・・・・・・。
それ以外の世界では、それは決して・・・。
ひどく苦しげに咳き込む音。ヒューヒュー鳴るノド笛。
まさに命の灯火が消えようとしている、いまこの瞬間も、なお。
子孫を残す執念にのみ従おうとしている。
その姿は、滑稽を通り越して哀れすら感じさせた。