神様修行はじめます! 其の四
その人の目に映るもの
絹糸は空を駆けながら浄火に問いかけた。
「さて、どこへ行く?」
「海岸へ向かってくれ。信子ババはそこにいると思う」
浄火の言葉に門川君も同意する。
「そうだな。信子長老の目的から考えると、彼女は海を越えて戻ろうとしているはずだ」
あたし達は向かい風に吹かれながら、先を急いだ。
高所から見下ろす、岩場ばかりがどこまでも続く殺風景な景色。
その果てに、場違いに鮮やかな色彩が見えてくる。
オーロラ色に波打つ、ハッとするほど美しい魔の海。
あたし達が一番初めに到着した、あの海岸だ。
その波打ち際から少し離れた、枯れた植物に覆われた砂地。
そこに、ひとりの女性が海を眺めてポツンと立っている。
黒と見まごうばかりに濃い灰色の着物の裾が、風に吹かれていた。
着物の柄の白い花びら模様が、まるで散ってしまいそうで・・・。
あたし達は彼女の背後に音も無く降り立つ。
でも、気付いていないはずがない。なのに彼女はこちらを振り向かない。
あたし達は海風に吹かれながら、そのまましばらく黙りこくっていた。
やがて・・・
「信子ババ」
背を向けたままの彼女に、浄火が話しかける。
「長が死んだぜ。戌亥を道連れにして」
「・・・そうか」
海を見たまま、たったひと言彼女が答えた。
それ以外はなんの反応も見せず、再びこの場に沈黙が訪れる。
髪が、風に靡いて乱れた。
「あのじーさんも、今頃はもうあの世行きだ。あの色男のおっかねえ兄ちゃんがな」
「・・・そうか」