神様修行はじめます! 其の四
「どうして? どうして?」
血に染まった着物の上に覆い被さり、子独楽ちゃんが泣き続けている。
しゃくり上げる声が、深い悲しみと大きな動揺に満ちている。
母親の遺体を前にした少女に、どんな言葉をかければいいものか・・・。
あたしは悲壮な顔でうつむくしかない。
誰も声をかけられない中、子独楽ちゃんが口にした。
「どうしてお母さんが死んでいるの? 何があったの?」
・・・・・・え?
どうしてって・・・どういうこと?
「どうやら、異形になっていた間の記憶がすっぽり抜けているらしい」
疑問の表情をしているあたしに、絹糸がポツリと答えた。
異形の時の記憶がまったく無い?
じゃあ、父親に異形の水を飲まされて、意識を失って、そして・・・。
「そして目が覚めたら、目の前で母親が死んでいた。ということじゃ」
「そんな。そんなのって・・・」
あたしはそれ以上、何も言えなかった。
やっぱり子独楽ちゃん、母親が命と引き換えに自分を守ってくれたこと、知らないんだ。
そう思ったら、信子長老があまりに哀れでしかたなかった。
自分は母親に捨てられたって思い込んでる娘への、命をかけた最期の愛の証だったのに。
結局、それは伝わらなかった・・・。
「お、お母さぁん。どうして、あたしを、置いて行くの?」
子独楽ちゃんの頭の中は、悲しみと混乱と衝撃で極限状態だろう。
説明してあげたい気持ちは、もちろんあるけれど。
そのためには、彼女が異形になっていたんだと教えなきゃならない。